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日記 + 最新小説保管 / 創作・版権二次創作 / 同性愛要素、性表現含
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プリ×Wiz (椿×悠) (♂×♂)
 俺の朝は、一杯のモーニング珈琲で始まる。
 愛しい相手が手ずから淹れてくれた香り高い珈琲を、混じり気のないブラックで頂くのが俺の日課だった。
 ウィザードの俺にとって、適度な苦味と酸味を兼ね備えた恋人の珈琲は、その香りを鼻腔に招き入れるだけで精神の集中力が高まると言っても過言ではない。
 相手が身に纏う聖職者の衣装のように漆黒の色を湛える珈琲を胃に落とし込むとき、それはまるで恋人をこの身に流し入れるような錯覚さえする。勿論、相手が淹れてくれた場合限定だが。
 狩に行く日も、予定の入っていない日も。朝まで互いの肢体を絡めて愛し合った日さえも、それは二人で過ごすようになってから毎日変わることなく続いてきた日課だった。


 だから想定外のことが起こったとき、人間ならば多少は焦っても致し方ないだろう。
 断じて言い訳ではない──筈だ。




「……椿(つばき)?」
 昨夜も一つベッドで愛し合い、恋人の技量で躯の芯から蕩かされた翌朝。何の変哲もない日常の筈が、その日に限って違った。
 傍らにある温もりを求めて手を伸ばしたのだが──そこにあったのは冷たくなったシーツの手触りだけ。
 未だしっかりと開かない目元をこすり、重い瞼を開くが、やはり隣には誰もいなかった。
 手洗いにでも行ったのだろうかと思い、とりあえず上半身を起こしてベッド脇のカーテンを乱雑に引いた。外は良い天気で陽光が部屋を明るく照らす。
 季節を踏まえ、この太陽の位置から現時刻はおおよそ八時前後といったところだろうか。
「椿」
 もう一度誰もいない部屋に向かって声をかけて見るが、当然のように返事は返ってこない。誰が見ているわけではないが、裸体のままで部屋を歩き回るのは些か見目悪いと思い、手近にあったローブを簡単に纏って洗面所に行くが、そこに人影はなく椿の温度は感じられなかった。
「……手洗いではないとなると、何処に行ったんだ?」
 首を傾げながらベッドに戻り、腰掛ける。ふと床を視線を落とすと、脱ぎ散らかされた衣装の中にプリーストのものだけがなくなっていた。
 念の為にと衣装箪笥を確認してみるが、そこにも椿が着ているプリーストの衣装がない。玄関を見てみると椿が普段履いている靴もなく、誰かが侵入した形跡もない。
 結論を出すに早いかもしれないが、おそらく椿は朝からどこかに出かけたということなのだろう。出かけただけならば、いつかは戻ってくる。戻ってくるのだ。
 はぁっと安堵の息を吐いた俺は、漸く自身に起きていたある変化に気付いた。
「……我ながら情けない」
 今になって手の震えに加え、あちらこちらから冷や汗を流していることに気付いた俺は、自らを嗜めるようにぎゅっと拳を握り締める。
 思考ばかりが冷静に進み、身体機能がそれについてきていなかった、ただそれだけのこと──ではあるのだが、結局のところ俺は不安だったのだ。
 目が覚めると椿がいて微笑んでくれる。俺の名を呼び、日課の珈琲を差し出してくれる。
 当たり前のようにここにある筈の日常がなくなる可能性に、全身冷や汗をかき震えるほど、心臓を鷲掴みにされるほどに恐怖した。
 椿が寝ていた筈のシーツにそっと手を置くと、今も冷たさが伝わってくる。
「本当に……何処に行ったんだ」
 いつも椿が珈琲を淹れてくれる、今は何もないテーブルに視線を寄せる。そう、いつもならそこに温かな珈琲と椿の笑顔がある筈なのだ。
 不安が心配を呼び、苛立ちを募らせる。落ち着かない自分を諌めようとするが上手くいかない。万が一だが、椿が何者かによって拉致されている可能性もあるのだ。それならば一刻も早く動かなければならない。
「くそっ!」
 地団駄を踏むように強く床を踏んだその時──玄関のドアが勢い良く開き、俺の不安を吹き飛ばすような明るい笑顔が飛び込んできた。
「悠(ゆう)っ、ただいま! カーテンが開いてたからもしかしてって思ったけど、やっぱりもう起きてたのか。悪い、寂しい思いさせたか?」
「椿……お前一体何処に」
 苛立ちを隠した俺の言葉を遮って、椿は楽しそうに抱えている袋の中身を解説する。
「大量だぞ、クロワッサンにバケットにライ麦パン。今朝はこれでサンドイッチ作るか? それともフレンチトーストがいいか?」
「椿」
「ん?」
「何処に行ってたんだ?」
 俺の表情からただならぬ気配を察したのか、椿は袋を抱えたまま俺に向き直った。
「何処って、このパン買いに。お前に食わせたいパン屋の話、昨日したろ?」
 忘れちゃったのか? と顔を覗き込んでくる椿を見つめ返しながら、俺は記憶の糸を手繰る。
 昨夜の熱い営みでそんなことは記憶の引き出しの奥に突っ込んだままだったとは言わないでおこう。
 確かに焼きたてパンの店を見つけたから行きたいと。朝一番で行かなければ売切れてしまうからとは言っていた。だが余りに急すぎはしないかと思い、俺は反論する。
「確かに言っていたな。だが今日、しかも朝から一人で行くとは聞いていない。いきなりいなくなったら驚くし心配するに決まっている」
「え。だからちゃんと此処に書置き……」
 焼きたてパンのいい香りをさせた袋をテーブルに置いた椿は、きょとんとしつつも同じくそのテーブルを人差し指でコンコンと軽く叩く。
 そこには一枚のメモとともに、丁寧な椿の字でパン屋に行く旨が記されていた。
「気付かなかった」
「此処ってわかりやすい場所……だよな?」
 憮然としたまま俺は考える。確かに今、このテーブルには一枚のメモがあった。そしてこのテーブルは当然俺の視界にも入っていた。
 だが先程までメモの存在にさえ気付けなかった。
 冷静に考えれば、椿が何の言付けもなく勝手にどこかへ行くなど余程の急用でもない限りありえる筈もなく、何故気がつかなかったのかというと──解は単純にして明快だった。
 まったく、誰が「冷静に思考を進めていた」のだか。自分自身に呆れてしまう。
「……お前がいないことで頭が一杯だった」
 まるで犯行を自首する犯人のように呟いた俺に、椿の腕が伸びる。
 座ったまま抱きしめられた俺は、椿の背にそっと腕を回した。
「こんなに体冷やして」
「汗をかいてそのままにしていたからな。それで冷えたんだろう」
「汗?」
「……冷や汗をな」
「風邪ひくぞ」
 きゅっと更に力をこめる椿の温もりに、俺は躯から熱が湧き上がってくるのを感じる。それは快楽ではなく、純粋に温まっていく心が発する熱。椿への愛情だった。
「大丈夫だ。お前の抱擁で温度を取り戻せた」
「そうか。なら良かった」
 一旦躯を離した椿の顔がゆっくりと近づき、唇が重なる。
 甘く柔らかな感触に、椿がここにいることを実感することが出来た俺は椿に向かって漸く微笑むことが出来た。
「愛している、椿」
「うん、俺も愛してる悠」
 互いにしっかりと抱きしめあってから自然と躯を離す。見詰め合ったそこにはもう、不安も何もなかった。
 にこっと笑った椿がくるりとテーブルに向き直り、パンの入った袋を漁る。
「よーし。今日はこれとこれ使ってローストビーフとオニオンのサンドイッチ、あとはクロックムッシュだ。今作るから待っててくれな?」
 腕をまくってエプロンをつける椿の後姿に、俺は声をかけた。
「ああ、椿。一つ頼みがあるんだが」
「ん?」
「サンドイッチを作る前に、珈琲を淹れてくれるか?」
「何言ってるんだよ、悠」
 くすり、と椿の笑む声音が漏れる。
「勿論、一番最初に淹れるに決まってるだろ」
 陽光の中振り返った椿が、俺に向けて極上の笑顔を浮かべた。
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GvG話 WS&Wiz(♂&♂) (1-4)
 薄暗いランプの明かりが灯る広めの部屋に、背の低い黒塗りのテーブルが鎮座している。その前にはエドガの皮を用いた座り心地抜群の高級感に溢れたソファ。そこに、一人のホワイトスミスが腰掛けていた。
 手にしていたショートグラスに酒を注ぎ足し、新しい氷を投げ入れる。
「お前はどう思ってる」
 気障な仕草で銀の髪をかきあげ、部屋の奥にいる相手へ何の前触れもなく声をかける。 
「……今日の会議?」
「ああ」
 闇の中からヒトガタの陰が浮かび上がる。現れたのは華奢な体躯のウィザードだった。
 手にしたサバイバルロッドを弄びながら、ウィザードはホワイトスミスに音もなく歩み寄る。
「判ってるくせに」
 蠱惑的に微笑んだウィザードは、己とよく似た顔立ちのホワイトスミスの正面に立った。身長差は約十センチ強あるので、ウィザードが若干ホワイトスミスを見上げる形になる。
 単体ギルドDark Agesの参謀でありサブマスターのウィザードは、今日行われたギルド内会議で一切声を発さず、ただ同盟賛成に挙手したのみだった。
 尤も、今日が特別無口だったわけではない。ウィザードは普段から兄以外に対して口数が少なく、会議では必要最低限しか口を開かないのだ。
「僕は兄さんが間違えるとは思っていない。だから同盟には賛成、それだけ」
「ああ、その通りだ」
 当然だろう、とホワイトスミスは支配者の風格を漂わせながら轟然と言い放つ。
「誰がなんと言おうと、この俺が進む道こそを正道にしてやるまでだ。お前は俺についてくればいい」
 満足げにホワイトスミスが頷く。
 ホワイトスミスもウィザードが内心で反発しているとは思っていない。ただ、恭順していると口で言わせたかっただけだ。またウィザードもホワイトスミスにそう言いたい──と言ってもホワイトスミスの前でだけ──からこそのやり取り。
 兄弟でありながら支配者と被支配者。それが、お互いが望んだ関係だった。
 ソファに腰を下ろしたウィザードは色好い仕草でホワイトスミスの肩にしな垂れかかり、指先を均整の取れた腕に這わせる。
「兄さんの道を正道にする為なら、僕はなんでもするよ。そうして兄さんについていく……どこまでもね」
「当然だ。他の場所に行くならその前に殺してやるから安心しろ」
 自身の肩に乗せられたウィザードの頭に手を乗せ、ホワイトスミスは愛玩するように撫ぜた。
「同盟交渉は明日?」
「ああ、もうラヴィンには連絡を入れた。過半数の支持が得られたらしい」
 心地好さげに撫でられていたウィザードだが、ホワイトスミスの口から同盟相手のギルドマスター──ラヴィンの名が出た瞬間、眉をぴくりと震わせた。
 ウィザードの不可視な慟哭を知ってか知らずか、ホワイトスミスは饒舌に喋り続ける。
「尤もうちと組むのに文句がある奴がいるとは思えないがな。メリットの面でも、この俺がいるって点でも」
「……そうだね。相手には情報収集に長けた参謀がいるらしいし、満場一致だったんじゃないかな」
「情報か。フン、それは俺にとってもいい手駒になるな」
「…………兄さんの手駒が増えるのは良い事だね」
「それにしてもあのマスター……ラヴィン。先達て単独で俺に逢いに来たときは大胆な奴かと思っていたが、話をしてみた結果案外慎重に物事を進めるところもあるらしいのが判ったからな。同盟によるメリットは大きいだろうが、何よりあの男、ラヴィンに興味がある」
「………………」
「ツァーリ?」
「交渉……こちらの有利に事を運べるといいね。相手はなかなかの曲者だっていう話だから。参謀のアサシンクロスも、切れ者で有名な人物だよ」
「はっ、何を言うかと思えば」
「何?」
「ツァーリ。誰が交渉すると思ってそんなことを言ってる?」
「そうだったね……兄さんの道に過ちはない」
 ふと立ち上がったウィザードは窓辺に歩み寄り、閉じていた窓を開け放つ。
 部屋に冷えた空気が流れ込み、ウィザードの肌を撫でた。
「明日も見ていればいい、俺の傍で」
 ウィザードの背に向けて自信たっぷりにそう言うと、ホワイトスミスはグラスを傾け小さくなった氷を口内に放り込み、奥歯で噛み砕く。
「傍に置く人間を増やすのは構わない。でも、もしも僕から離れることがあったら、そのときは殺してあげるから……」
 暗雲覆う夜空に向けて小さく艶めいた口調で呟かれたウィザードの一言は、未だ鳴り止まない雨の音によって掻き消された。
GvG話 チャンプ&AX(♂×♂) (1-3)
 ギルド内会議が終ったのは、夜もかなり更けた頃だった。
 21時ごろに始まった会議で先ず議題に上がったのは同盟について。その可決はすんなりとすんだのだが、その後予定外の爆弾発言があった。
 ポータル役のプリーストが退職を希望してきたのだ。
 話によると結婚を機に冒険者を引退するらしく、急な話で申し訳ないとギルドの皆に頭を下げるプリースト。
 そのときギルドマスターが立ち上がり、プリーストの肩に腕を回した。
「何言ってんだ。今まで本当によくやってくれたよ、なあ皆?」
 ギルドマスターの言葉を皮切りに、プリーストに向けて次々に祝いの言葉が投げかけられ。その場は簡単な祝いの席になった。
 改めてギルドをあげてのパーティを開く計画と、振舞われる祝い酒。照れながらも幸せいっぱいのプリーストは、皆からの祝福を一身に受けて微笑んでいた。
 ギルドメンバー一同の笑顔。勿論アサシンクロスの顔にも笑みが浮かんでいた。が、それは上辺のみのものだった。
 彼の心中は暗く、祝い事だとわかっていてもそんな気分にはなれなかった。本当は祝いたい。けれど沈む心を浮上させる事がどうしても出来ないのだ。
 そんな自分に嫌気が差したアサシンクロスは、睡眠不足を理由にして場を退席する事にした。
 音も立てずに階段を上がり、二階にある自分の部屋へ入ろうとしたそのとき、後ろに気配を感じて振り返る。
「よっ」
 そこに居たのはギルドメンバーのチャンピオン。いつもおどけた調子のお祭り屋である彼が退席しては、場が盛り下がってしまわないのだろうか。
 酒が入っている所為か、いつも以上に陽気な笑顔を浮かべるチャンピオンに向けてアサシンクロスは苦笑する。
「お前もさがったのか。お前が居ないと盛り上がりに影響してるんじゃないのか」
「俺が居なくてももう皆出来上がってるさ。それよりちょっといいか?」
「……なんだ」
「話があるから声かけたに決まってんだろ」
「今日は疲れてる。明日にしてくれないか?」
 すげなく返事してドアノブを握ったアサシンクロスの手に、チャンピオンの手が重なる。
 無視してノブを回そうとするも、チャンピオンの手ががっしりと固定されていてそれを許してくれない。
 相手は阿修羅担当のチャンピオン。アサシンクロスの力では押し負けてしまう相手だ。
 ノブを回させてもらわなければ、部屋に入る事は出来ない。アサシンクロスはため息を吐いてチャンピオンを軽く睨んだ。
「今日は寝かせてくれ」
「疲れてるったって、今日は昼まで寝ててそのあとだってどこも出かけてないんだから疲れてるわけないだろ。あ、もしや昨夜頑張りすぎて?」
「そんな相手、いるか」
「いるじゃん、嫁さん。知ってるぜ、昨日遅くまで一緒だったろ」
「あいつとはそういう関係じゃない」
「じゃあ疲れてないだろ、体は」
「……」
 階下ではまだどんちゃん騒ぎが続いているようで、みんなの笑い声が響いている。
「お前の好きそうな酒持ってきたから入れてくれよ。な? これならアルコール度数も低いし、軽く飲みなおしながら話そうぜ」
 なおも食い下がるチャンピオンを見て、これ以上の押し問答は無駄と判断したアサシンクロスは、観念したように頷いた。
 多少強引と見えるチャンピオンの行動なのだが、それでも憎めないのは彼の人徳だろう。
「わかった」
 了承を得たチャンピオンは嬉しそうに笑ってアサシンクロスの手を解放する。
 がちゃ、と音を立ててノブが回り、開いたドアがしまらないうちにと言わんばかりにチャンピオンが部屋に滑り込んだ。
 テーブルにアマツ産らしき酒の瓶と階下から持ち出したらしい酒のつまみを手早く並べている。
「で、話とは?」
 二人分のグラスを手にしたアサシンクロスは、チャンピオンの向かいに腰を下ろす。
「ん? そりゃー今日の会議について」
「同盟の話か。なら会議の最中に言うべきだったな、今話す意味はない」
 チャンピオンが注ぐ酒をじっと見つめていたアサシンクロスは、何を今更と口の端で笑う。
「会議じゃ言えないこともあるだろ」
「それでは会議の意味がない。次からはきちんと会議で言うんだな。で、どんな言いたい事があったんだ。同盟に不満だったのか?」
「馬鹿。ギルドの事考えたら今回の同盟は諸手を挙げて賛成だ。あっちにゃうちにはいない教授がいるし、SP貰えば阿修羅打ち放題だからな」
「じゃあ、話とは?」
「個人的事情って奴だ。なーんかお前、ギルドマスターの話聞きながらいつもと様子違うように見えてさ。それを気づいてて知らぬ振りしてるマスターが気に入らなかったってだけ」
「……それなら見当違いだ。俺は同盟に賛成している。良かったな、悩みは解決だ」
 内心では図星を突かれた事に動揺していたが、それを決して見せまいと、アサシンクロスは酒がなみなみと入ったグラスに口をつけてぐっと一気に飲み干す。
 チャンピオンが言ったとおり非常に飲み口が軽く、桃の風味がする。アルコールと言うよりもまるでジュースのようだった。
 二杯目を促すように空のグラスをチャンピオンに差し出すと、再度なみなみと注がれる。
「お前の賛成も俺と同じだよ。ギルドの事考えたら賛成だけど、何かが気に入らない──だろ?」
「……知ったような口をきいてくれるじゃないか」
「そりゃ知ってるさ」
 チャンピオンのすべてを知っていますというという口調と訳知り顔にカチンときたアサシンクロスは、手元のグラスを空にしてから注げと言わんばかりにそれを突き出した。
「お前に何がわかる」
「他にもあるぜ、知ってる事」
「ふん、それは初耳だな。お前に知られている事があろうとは」
「知りたいか? これ飲み干せたら教えてやってもいいぜ」
 殺気さえこもるアサシンクロスの挑戦的な視線をものともせず、チャンピオンはグラスに酒をなみなみと注いだ。
「アルコール度数の低い酒を用意したお前の負けだ」
 フッと勝利を確信した笑みを浮かべたアサシンクロスがグラスに口をつけ、急斜度に傾ける。
「ふっ、どう、だ……。あ……」
 ぐらり、と揺れたアサシンクロスの頭がテーブルと激突する寸前、チャンピオンの手が差し出される。
 無事アサシンクロスの頭を受け止めたチャンピオンは、気の失せたアサシンクロスに向かって呟いた。
「俺が知ってるのは、こうでもしなきゃ、お前は今夜眠れなかったって事だよ。ついでに言えばこいつは飲みやすいだけで、下で飲んでた酒よりもよっぽど強いんだぜ……ってもう聞こえないか」
 酔い潰れたアサシンクロスの、男性にしては華奢な体を軽々持ち上げ、チャンピオンはやれやれと笑った。
 ベッドにアサシンクロスの体を投げ、その頬を軽く突く。
「この不器用」
 痛々しく笑うのを気づいていたのは、おそらくギルドマスターと自分、そして嫁のハイプリーストだけだろう。
 自分が動くときに視線を投げてきたのはハイプリースト。頼む、と言っているようで、実は少し迷っていたチャンピオンの背中を心強く押したものだ。
「本当はばらすつもりなかったんだけどなー、お前の様子に俺が気づいてるの。でも、黙ってらんなかった」
 ばらした理由は、席を立って階段を上がる際に、ついでに気になっていたギルドマスターの顔をちらりと見たら、意味ありげに笑い返された。チャンピオンはそれに腹立った。アサシンクロスがこうなっているのは、十中八九彼が原因なのに。
 ギルドマスターの性格ややり方は気に入っているが、アサシンクロスへの態度だけは許せなかった。だから彼に言ったのだ、少なくとも知ってる人間がここに居て、それはお前の味方なのだと。
 尤も、筋違いの感情なのは十分承知なのだが、それでも言わずにいられなかった。
 ただの自己満足だな、とチャンピオンは自嘲する。
「あーあ、ギルド脱退してやろうかなー」
 今いるギルドを脱退して、敵対するギルドに入る。そうすれば公明正大にあのギルドマスターに鉄拳制裁してやれるのに、とチャンピオンはベッドに腰掛けた。
 だが現実問題敵対ギルドが自分を簡単に受け入れるわけないだろうし、そもそもギルドを移ってしまえばアサシンクロスとの縁も切れてしまう。
「ま、ゆっくり悩むとしますか」
 次の攻城戦までは、まだ三日ある。それを過ぎてから結論を出しても遅くはないのだ。
 せめて雨がやみますようにと暗い夜空に願い、チャンピオンはアサシンクロスの頭をひと撫でしてから部屋を出た。
水城&戒 地上
 車が、人がせわしなく行きかう新宿のとある交差点。
 駅から少し離れたその場所で、一人の青年がガードレールに腰掛けていた。
 深い黒緑のしなやかな髪を、無造作にうなじの辺りでくくっている。そして最も印象的なのが、髪の色よりも尚濃い色の、全ての光を吸い込んでしまいそうな闇色をした瞳。
 一見華奢な躯つきだが、座っていても長身なのが見て取れる。もしかしたら海外の血が入っているのかもしれない。その姿はどこか日本人離れしているように感じられた。
 片膝をつき、その上にひじを乗せて頬杖をつき、ぴくりとも動かない姿は彫像を連想させる。
 何をするでもなく、ただ喧騒と景色を瞳に写しているだけ。だが彼の視線は宙を彷徨っていて、放心している様にもみえるその姿は、現実ではなく心の風景を見つめているようにも思えた。
 彼の周りを包む空気は一種独特っだ。
 なんと説明したものか、そこだけ「音」がないのだ。
 都心独特の排気ガスを多量に含んだ、いつ光化学スモッグがおきてもおかしくない汚れた都会の空気の中、彼の周りだけが世界から切り離されているかに感じる。
 浮き彫りになった無音の空間。それは彼が孤独を望んでいるからに他ならない。
 他人を拒絶し、過去を拒絶し、自分を拒絶し、果ては未来を拒絶している。
 何故解るのかというと、一人で居たいと如実に語る空気を纏う、かつての自分に重なるからだ。
 この街には、様々な事情を抱えた人間が多く存在する。彼もきっとそのうちの一人なのだ。
 それならば、放っておくべきなのだろう──だが、次の瞬間私は意思とまったく逆の行動に出てしまった。
「君」
「……なんでしょう?」
 返答が返ってくるとは思わなかった。
 テノールのさわやかな声音も、機械的に発すると酷く冷淡に感じるのだということを私は知った。
 だがそれなら、と。
 私は、感情の伺えない表情の彼に向かって笑いかけた。
「こんなところで座っているくらいなら、私の店に来ないか?」
「……折角ですけれど、遠慮します」
 唐突過ぎる私の申し出に、彼はいささか眉をひそめる。新宿の繁華街という特性上、これではナンパだと思われても仕方のない文句なのは重々承知している。
 まぁ反応としては当然だろうと思いながら、私は胸ポケットから名刺ケースを取り出した。
「そう言わずに。実は今日、何度か此処を通りかかったんだけれど、君ずっとここに居るだろう? ポーズも全く変わっていないし、一ミリたりとも動かずに此処に居たのなら流石に喉が渇いているんじゃないかと思ってね」
「……」
「無論、言いだしっぺの責任として奢らせて貰うよ。私は此処からちょっと先にある店を経営しているんだ。これは名刺。店といっても普通に飲食を楽しむ場所だから、そう警戒しないでくれると嬉しい」
「……戒、と言います」
 私の差し出した名刺を見、青年は短くそう答えた。
 相手の名前を聞いて、自分も名乗る。
 傍から見ても怪しく思われて仕方のない自分に対しても礼儀礼節を忘れないこの青年に、私は興味だけでなく好感を持ち始めていた。
「この名刺が偽物でないという証拠はないけれど、これで一応、身の証は立てたつもりだよ。誘いには応じてくれるかな」
「……そう、ですね。一杯だけならご馳走になります」
「それは嬉しい。なら、早速だけど移動しないか? こんなところで立ち話を続けていては本当に排気ガスで喉をやられてしまうよ。折角綺麗な声をしているのに勿体無い」
「……」
「ああ、下心はあまりないから安心してくれ……なんて、余計に怪しいかい?」
「……いえ。ありがとうございます」
 無気力気味に、戒と名乗った青年はフラリと立ち上がり、私の横に立った。
 彼を包む独特の空気は未だ健在で、私を──世界を拒絶しているのがありありとわかる。
 それでも、「私という存在」を認識はしたようだ。拒絶をする事が出来ているのだから。
「では、行こうか」
 うな垂れるように頷いた彼を先導するように、私は自分の城へと足を向けた。
GvG話 AX&ハイプリ(♂&♀) (1-2)
「それで結局貴方、マスターの話を承服しちゃったの?」
「……仕方ないだろう。それがあいつの考えなのだから。俺は参謀としてそれに従うだけだ。たとえ自身は納得できないことでも、マスターの決定を疑う気はない。明日のギルド内会議では君も賛成に票を投じて欲しい。君だって同盟自体には賛成だろう」
 一気に言葉を吐き散らし、肩を落としたアサシンクロスは手にしたグラスの中身を一気にあおった。
 高濃度のアルコールがアサシンクロスの喉を焼く。だが今の彼にはそれがひどく心地好かった。
 モロク産の強い蒸留酒を再び注ごうとする彼の手を、白く細い手が押し止めた。
「もう止しなさいよ、貴方そんなお酒強くないんだから。明日に響くわよ」
 飲まずにいられないのはわかるけど、とハイプリーストは心中で呟く。
 当のアサシンクロスは口元を歪めて自嘲するように笑った。
「明日の予定は会議だけだ。昼まで寝ていられるんだから構わない」
 まったく無理しちゃって、とハイプリーストは再び心中で呟く。彼女には、彼が心に負った傷の痛みをアルコールで無理やり流そうとしているようにしか見えなかったのだ。
 勿論本人は無自覚なのだろうが、それが尚更タチが悪い。上手く痛みを負った事実までは自覚できたとしても、この自分の心を知らないアサシンクロスは、マスターを説得できなかった無力感ぐらいとしか思わないだろう。
 それも間違ってはいない。だがそれだけが事実でもないのに、だ。
「昼間で寝ていられたとしても、突然狩りに行こうとか言われるかもしれないでしょ? マスターと行く狩りは一番好きな筈よ」
 彼女にとってアサシンクロスは、ギルドの、そしてGvの為に結婚した相手。愛ではなく、契約。HP・SPを譲渡する為だけの関係。躯を重ねた事すらない夫婦だった。
 このギルドでは効率の良い職同士の結婚が推奨されていて、その先駆けとして、アサクロとハイプリーストだった二人は結婚した。ギルドの規約で、ギルド脱退の際のみ離婚時の費用をギルドが払ってくれるシステムだ。
 愛のない結婚──だがその言葉から感じる筈の冷たさは、この二人には当てはまらない。何故なら確実に「友愛」という愛が存在しているのだから。
「ほら、もう寝て寝て。明日に備えましょ」
 アサシンクロスのベッドを整える為に立ち上がったハイプリーストは、背中越しに優しく諭す。
 このギルドは宿舎で個人の部屋を与えられていて、夫婦とはいえこの二人も別室で暮らしていた。
「……行かない」
「え?」
「行かない……今は、明日は、誘われても、行きたくない」
 末期だわ、とハイプリーストは頭を抱えた。
 ベッドのシーツをピンと張りなおし、枕と布団を整え終わってから彼女は俯いてテーブルに突っ伏したアサシンクロスの隣に腰を落とす。
 僅かに震える手から優しくグラスを奪うと、テーブルの端にそれを置いた。
「らしくないわよ。そんなの」
「……らしくない?」
「だって行きたくない理由、はっきり言える?」
 顔を上げずに黙りこくったアサシンクロスの顔を、ハイプリーストの両手が無理やり持ち上げる。
「何するっ……!」
「一旦決めた事なんでしょ? 従うのも、承服するのも」
「……」
 無言で頷くアサシンクロスの頭を、ハイプリーストは母親があやすように撫でた。
「お酒に逃げるのは貴方らしくないわ。貴方の信条に従いなさいよ」
「俺の、信条」
「そう。貴方が一番したい事って、マスターの力になること。そうよね?」
「……そうだ」
「我がギルドにおいて、マスターの片腕は貴方なの。他の誰でもないし、誰にも出来ないし、代わりはいないの」
 本当はギルドマスターに言って欲しい言葉なのを、ハイプリーストは判っている。
 彼は必要とされたいのだ。他の誰でもない、ギルドマスターであるロードナイトに。だから自分よりも重く見られている向こうのギルドマスターに嫉妬しているのだろう。
 だがそれは自分で気づくべき事で、彼女が言う事ではない。
「マスターは貴方を必要としているわ。勿論、私だってね」
 そういってハイプリーストは片目を瞑って微笑む。
 アサシンクロスはこの出来た嫁を虚ろな目で見上げた。
「マスターも……だろうか」
「気になるなら明日にでも直接聞きなさい。教えてくれるわよ、きっと」
「いや、それは……」
 再び顔を俯かせたアサシンクロスに、ハイプリーストは「もう!」と唇を尖らせ両手を腰に当てる。
「いつまでもウジウジしてると、無理やり慰めるわよー? 勿論ベッドのう・え・で」
 青年と壮年の間という年齢であるにもかかわらず、実は女性経験のないアサシンクロスは「うう」と息を呑んで唸った。
 彼女の言葉が冗談なのはわかっている。が、同姓同士の猥談ならともかく、女性相手にその手合いの話題を得意としないアサシンクロスは返す言葉を失う。
「だから狩りに行きたくないなんて我が儘言わないの。深酒なんてことしてないの」
「……わかった」
「わかればよろしい」
 満足げに微笑んだハイプリーストは、ぽふぽふと布団を叩いてからグラスに真水を注いでベッドのサイドテーブルに置いた。
 おとなしくベッドに横たわったアサシンクロスは、ハイプリーストを見上げて力なく微笑む。
「……なあ」
「何?」
「ありがとう」
「どういたしまして。お礼は天使の羽耳でいいからね?」
「…………ああ」
 悪戯っぽく微笑んで、手を振りながらハイプリーストは退室する。
 明日──いや、既に日付は変わったから今日。G内会議に備える為と自らに言い聞かせ、アサシンクロスは瞼を閉じる。
 しとしとと降り続ける雨音が、寝付けない彼の頭にいつまでも響いていた。
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● このブログはクロストラブル/38.1の高山アキが執筆する、サイトやイベント関連のご連絡・萌語りなどの雑記と、小説の新作をupしておく保管庫場となっております。
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