日記 + 最新小説保管 / 創作・版権二次創作 / 同性愛要素、性表現含
[PR]
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
今だけでいいから(緑間×黄瀬? 帝光時代 女性向)
「なんで、黒子っちはあんな青峰っちばっかにパスするんスかねえ。オレにももっとボール回して欲しいっス」
今まで色んな人に何度もしている質問を、今日もぶつけてしまう。
頭では判ってるんだけど、試合の後はどうしても誰かから言ってほしくなる。
緑間っちに聞いてしまうのは、帰り道が一緒になることが多いからってだけじゃなくって、理路せーぜんな回答をくれるから、だと思う。
予想通り、緑間っちはゆっくりとしたため息を吐いて、オレを横目で見ながら答えてくれた。
「赤司の指示なのだからオレや黒子に言っても仕方ない。それに、黒子は影だ。影は光が強ければ強いほどその濃さを増す。オレ達も決して弱くはないが、青峰の光が一番強いのだよ」
「それは判ってるんスけどね……」
いくら手を伸ばしても届かない、帝光のエースに相応しい憧れの存在。追いつきたくて必死で練習して、食いついていくオレを、飽きもせずちゃんと相手してくれる青峰っち。
勿論、あの才能を認めてる。とゆーか、そもそも青峰っちのプレイ見てバスケ部はいったんだし、認めてなきゃこんなにバスケ続けてないし。
──けど。オレは黒子っちが大好きだから。
だから黒子っちからのボールが欲しい。シュートの後に、黒子っちと拳を重ねたい。いいプレイをした後にほんのちょこっとだけ笑ったような顔をしてくれる黒子っちを独り占めしたい。
でもそれは全部、とまでは言わないけどほとんど青峰っちのものだ。
緑間っちの言うとおり、指示に従ってるだけの黒子っちに他意がないのは判ってる。ただ青峰っちが強いから、ボールを回してる。チームの為には当然だし、キャプテンの判断も間違ってないってわかってる。
「やっぱ、悔しいんスよ」
「そんなのは当然だろう。向上心なくして強くなどなれないのだよ。悔しいならそれをバネに実力で青峰を抜けばいい」
「オレが、青峰っちをー?」
さらっと言った緑間っちの言葉を、はははっと笑ってごまかした。
青峰っちを抜く──それは考えれば考えるほど、オレの中でそれは現実的じゃない。
大好きな黒子っちを独り占めしたいって思うのに、青峰っちに勝てるイメージが出来ない。
青峰っちには勝ちたいし、いつかぶっ倒したいとは思うのに、誰にも負けて欲しくない。誰にも、ってのは勿論オレにも。
バカだなあ、と自分でも思う。
両方成り立つのが無理な願いを抱えて、正直結構、キツくなってきてる。
ため息をついて夜空を見上げたら、ぽっかり満月が浮かんでた。
眩しい光を放つ満月のおかげで、周囲の星は見えにくい。強い光の前では、他の星がいくら光ったって敵わないんだろうか。
ま、月の場合は太陽のおかげで光ってるんで青峰っちとは違うけど。
「黄瀬」
立ち止まって空を見てたら、いつのまにか緑間っちと数歩差が出来てた。
慌てて緑間っちに駆け寄ると、何故か緑間っちはその場で立ち止まったまま動かない。
緑間っちが立ち止まっている理由が見えなくて、オレは「んんん?」と首を傾げた。
「どーしたんスか、緑間っち」
「知っているのだよ」
「知ってるって、何を?」
「オマエだけではない。オレ達の誰しもがあの影を求めて自分に重ねたがっている。……オレも例外ではない」
それは緑間っちらしい遠まわしな物言いだったけど、すぐにピンときた。
っていうか、他の皆が黒子っちのことについてライバルなのくらいオレだって薄々気づいてはいたけど、改めてこう宣言されると、結構衝撃だ。
月明かりの下、緑間っちの真剣な表情が浮かび上がる。
「……ライバル宣言とか、余裕っスね」
「オマエは余裕がないようだがな」
「そんなもん、あるなら愚痴ってないっスよ。試合中ラブラブな青峰っちと黒子っちを見てても冷静でいられる緑間っちが羨ましいっス」
本当に余裕げな緑間っちにちょこっとイラっとしたオレは自嘲気味に吐き捨て、地面に視線を落とした。
試合の後はいつもそうだけど、今日は特にひどい。帰り道一緒になりやすくて愚痴に付き合わされる緑間っちには悪いと思ってるけど、だからって感情を簡単に整理できるほど大人じゃない。
ましてや黒子っちのことを指摘された今は、尚のこと。
どんな表情をすればいいのか迷って顔を上げられずにいたオレは、緑間っちがいつの間にか目の前に立っているのに気づかなかった。
足元に向けていた視線をゆっくりと緑間っちの顔まであげる。
テーピングを巻いた指先で眼鏡の位置を直している、ちょっと怒ったような顔の緑間っちがいた。
「……緑間っち?」
「いいから黙って瞳を閉じろ」
流石にさっきの発言は怒らせたかもと思ったオレがおとなしく瞳を閉じると、不意に顎を軽く持ち上げられた。
そのまま唇がさらっとして柔らかい何かに覆われる感触がして、何が起きたのか判らないまま硬直していると、ざらっとした温かいものに唇をこじ開けられる。
キスなんだって理解したときには、緑間っちに口内を蹂躙されていた。
「……っ……」
吐息が漏れる。
どうしてか、いやな感じはしない。
オレが好きなのはあくまで黒子っちだし、緑間っちもそうだって聞かされた直後だし、自分がリードするならともかく緑間っちからキスされるなんて想定外なのに、オレの心は不思議と凪いでいた。
前置きもないし不器用だし強引極まりないけど、これが緑間っちなりの慰めなんだって判ったら、なんだか今だけは全部を預けたい気分になって、オレは緑間っちの背中に腕を回してた。
暫く舌を絡めあって──ていうか緑間っちなんでこんなキス上手いんスか──互いになんとなく唇を離した。
キスをする前となんら変わらない緑間っちの、少し怒ったような顔にオレは笑いかけた。
「元気、出たっス」
「脳の作りが単純だと回復も早くていいのだよ、まったく」
「ひっど! ひどいっス緑間っち!」
すかさず突っ込みを入れた自分に、いつもの調子に戻れたことを実感する。
「緑間っち」
「何だ」
「サンキュっス。でも、負けねっスよ。バスケも、黒子っちのことも」
「オレははじめからオマエに負けるとは思っていないのだよ」
そう言って歩き出したポーカーフェイスの裏側に見えた優しさを感じて、緑間っちのことも好きだなあ、って思った。
──勿論、黒子っちの次にだけど。
今まで色んな人に何度もしている質問を、今日もぶつけてしまう。
頭では判ってるんだけど、試合の後はどうしても誰かから言ってほしくなる。
緑間っちに聞いてしまうのは、帰り道が一緒になることが多いからってだけじゃなくって、理路せーぜんな回答をくれるから、だと思う。
予想通り、緑間っちはゆっくりとしたため息を吐いて、オレを横目で見ながら答えてくれた。
「赤司の指示なのだからオレや黒子に言っても仕方ない。それに、黒子は影だ。影は光が強ければ強いほどその濃さを増す。オレ達も決して弱くはないが、青峰の光が一番強いのだよ」
「それは判ってるんスけどね……」
いくら手を伸ばしても届かない、帝光のエースに相応しい憧れの存在。追いつきたくて必死で練習して、食いついていくオレを、飽きもせずちゃんと相手してくれる青峰っち。
勿論、あの才能を認めてる。とゆーか、そもそも青峰っちのプレイ見てバスケ部はいったんだし、認めてなきゃこんなにバスケ続けてないし。
──けど。オレは黒子っちが大好きだから。
だから黒子っちからのボールが欲しい。シュートの後に、黒子っちと拳を重ねたい。いいプレイをした後にほんのちょこっとだけ笑ったような顔をしてくれる黒子っちを独り占めしたい。
でもそれは全部、とまでは言わないけどほとんど青峰っちのものだ。
緑間っちの言うとおり、指示に従ってるだけの黒子っちに他意がないのは判ってる。ただ青峰っちが強いから、ボールを回してる。チームの為には当然だし、キャプテンの判断も間違ってないってわかってる。
「やっぱ、悔しいんスよ」
「そんなのは当然だろう。向上心なくして強くなどなれないのだよ。悔しいならそれをバネに実力で青峰を抜けばいい」
「オレが、青峰っちをー?」
さらっと言った緑間っちの言葉を、はははっと笑ってごまかした。
青峰っちを抜く──それは考えれば考えるほど、オレの中でそれは現実的じゃない。
大好きな黒子っちを独り占めしたいって思うのに、青峰っちに勝てるイメージが出来ない。
青峰っちには勝ちたいし、いつかぶっ倒したいとは思うのに、誰にも負けて欲しくない。誰にも、ってのは勿論オレにも。
バカだなあ、と自分でも思う。
両方成り立つのが無理な願いを抱えて、正直結構、キツくなってきてる。
ため息をついて夜空を見上げたら、ぽっかり満月が浮かんでた。
眩しい光を放つ満月のおかげで、周囲の星は見えにくい。強い光の前では、他の星がいくら光ったって敵わないんだろうか。
ま、月の場合は太陽のおかげで光ってるんで青峰っちとは違うけど。
「黄瀬」
立ち止まって空を見てたら、いつのまにか緑間っちと数歩差が出来てた。
慌てて緑間っちに駆け寄ると、何故か緑間っちはその場で立ち止まったまま動かない。
緑間っちが立ち止まっている理由が見えなくて、オレは「んんん?」と首を傾げた。
「どーしたんスか、緑間っち」
「知っているのだよ」
「知ってるって、何を?」
「オマエだけではない。オレ達の誰しもがあの影を求めて自分に重ねたがっている。……オレも例外ではない」
それは緑間っちらしい遠まわしな物言いだったけど、すぐにピンときた。
っていうか、他の皆が黒子っちのことについてライバルなのくらいオレだって薄々気づいてはいたけど、改めてこう宣言されると、結構衝撃だ。
月明かりの下、緑間っちの真剣な表情が浮かび上がる。
「……ライバル宣言とか、余裕っスね」
「オマエは余裕がないようだがな」
「そんなもん、あるなら愚痴ってないっスよ。試合中ラブラブな青峰っちと黒子っちを見てても冷静でいられる緑間っちが羨ましいっス」
本当に余裕げな緑間っちにちょこっとイラっとしたオレは自嘲気味に吐き捨て、地面に視線を落とした。
試合の後はいつもそうだけど、今日は特にひどい。帰り道一緒になりやすくて愚痴に付き合わされる緑間っちには悪いと思ってるけど、だからって感情を簡単に整理できるほど大人じゃない。
ましてや黒子っちのことを指摘された今は、尚のこと。
どんな表情をすればいいのか迷って顔を上げられずにいたオレは、緑間っちがいつの間にか目の前に立っているのに気づかなかった。
足元に向けていた視線をゆっくりと緑間っちの顔まであげる。
テーピングを巻いた指先で眼鏡の位置を直している、ちょっと怒ったような顔の緑間っちがいた。
「……緑間っち?」
「いいから黙って瞳を閉じろ」
流石にさっきの発言は怒らせたかもと思ったオレがおとなしく瞳を閉じると、不意に顎を軽く持ち上げられた。
そのまま唇がさらっとして柔らかい何かに覆われる感触がして、何が起きたのか判らないまま硬直していると、ざらっとした温かいものに唇をこじ開けられる。
キスなんだって理解したときには、緑間っちに口内を蹂躙されていた。
「……っ……」
吐息が漏れる。
どうしてか、いやな感じはしない。
オレが好きなのはあくまで黒子っちだし、緑間っちもそうだって聞かされた直後だし、自分がリードするならともかく緑間っちからキスされるなんて想定外なのに、オレの心は不思議と凪いでいた。
前置きもないし不器用だし強引極まりないけど、これが緑間っちなりの慰めなんだって判ったら、なんだか今だけは全部を預けたい気分になって、オレは緑間っちの背中に腕を回してた。
暫く舌を絡めあって──ていうか緑間っちなんでこんなキス上手いんスか──互いになんとなく唇を離した。
キスをする前となんら変わらない緑間っちの、少し怒ったような顔にオレは笑いかけた。
「元気、出たっス」
「脳の作りが単純だと回復も早くていいのだよ、まったく」
「ひっど! ひどいっス緑間っち!」
すかさず突っ込みを入れた自分に、いつもの調子に戻れたことを実感する。
「緑間っち」
「何だ」
「サンキュっス。でも、負けねっスよ。バスケも、黒子っちのことも」
「オレははじめからオマエに負けるとは思っていないのだよ」
そう言って歩き出したポーカーフェイスの裏側に見えた優しさを感じて、緑間っちのことも好きだなあ、って思った。
──勿論、黒子っちの次にだけど。
PR
わかっていても(緑間×高尾 秀徳 女性向)
「真ちゃんはなんだかんだ言ってアイツのこと認めてるんだな」
「……煩いのだよ高尾。それからその呼び方、いい加減やめろ」
ちょうど信号が青になり、へいへいと返答した高尾が再び自転車をこぎ始め、オレの乗っているリヤカーものろのろと動き出した。
湿気をはらんだ夜風が気持ちいい。店に入る前のくさくさした気分も今はだいぶ落ち着いている。
試合に負けた後だというのに、大分気分は晴れやかになっている。とはいえ、悔恨が晴れたわけではない。
『緑間君。また……やりましょう』──店を出る前に奴から言われた台詞が、オレの耳に心地よく響いていた。
不意に自転車が止まる。
信号などあるはずもない公園のわき道で自転車を止めた高尾が、突如ひらりと自転車から降り、若干湿ったリヤカーに寄りかかっているオレの傍へと寄る。
組んだ両腕をリヤカーの上に乗せた高尾が夜空を見上げてポツリとこぼした。
「なあ。俺が機嫌悪いの判ってる?」
「それくらい判っているのだよ」
言われずとも、高尾の不機嫌の要因など容易に想像がつく。
オレが今でも黒子に対して並々ならぬ関心を持っているのが気に食わないのだろう。
──かつてのチームメイトであり、今では袂を別った黒子。帝光時代、キセキと呼ばれたメンバーの中でも異質の力を持つあの影を、オレの傍に添わせたいと願いつつも、結局叶うことはなかった。
黒子への想いが未だ燻っていないかと問われると、否だ。
こうして秀徳に進学し、奴のいる誠凛高校と真剣に対戦することで、思っていた以上にオレは黒子への未練を残していたのだということを、よりいっそう強く感じた。
先ほどのお好み焼き屋で黒子とともに同席した、中学時代から黒子に対しやたらと親しげな黄瀬、そして現在の黒子にとっての光であるパートナーの火神。
能力は認めているし、別段嫌っているわけではないにもかかわらず、あの二人に対して言い知れぬ不快感を抱いた。
共通するキィ・ワードはただ一つ、黒子だ。
「大体、黒子がいる席に無理やりオレを着けたのはオマエの差し金だろう」
「そーだけど」
「それで機嫌を悪くされても、オレにはどうしようもないのだよ」
「んー、俺も自分で機嫌悪くなるの判ってたんだけど、それでも知りたかったっつーか」
「何を」
「昔は昔。今のお前の心にいるのは誰かってことを」
ゆっくりと高尾がこちらに顔を向けた。
瞳がオレに語りかけてくる。
ああ、オマエが何を言いたいのかは判っているのだよ。
それでも、残ってしまっている想いは簡単に消えない──決してだ。
オマエが如何にそんな切なそうな瞳をしても、苦しんでも。この傷を得てからオレは、まだ一年も経っていないのだ。
はあ、とため息を吐いたオレはちらりと高尾を見やった。
「それを言うならオマエとて海常の三年生とよろしくやっていただろう。お互い様なのだよ」
オレの発言を聞いて、何が嬉しいのか高尾はあからさまに明るい笑顔を浮かべた。
「真ちゃん。それって嫉妬?」
「……いいから黙って自転車に戻れ。帰りが遅くなる」
「あー、ガソリン切れた」
人力にガソリンも何もないだろう。
やれやれと思いながら、オレは高尾の顎を軽く掴んで引き寄せる。
いくら公園のわき道で木陰になっているとはいえ、公道なのだからと周囲に誰もいないことを確認してからオレは高尾に唇を重ねた。
時間にして数秒、短いかもしれないが充電にはこれで十分だろう。
「これだけだと途中で切れるかも」
「そのときはまた充電してやるから、早くこぐのだよ」
いい加減想い出にしなければな──判っていても昇華出来ない想いを燻らせながら、オレは再び自転車を漕ぎ出した高尾の背中を見つめていた。
「……煩いのだよ高尾。それからその呼び方、いい加減やめろ」
ちょうど信号が青になり、へいへいと返答した高尾が再び自転車をこぎ始め、オレの乗っているリヤカーものろのろと動き出した。
湿気をはらんだ夜風が気持ちいい。店に入る前のくさくさした気分も今はだいぶ落ち着いている。
試合に負けた後だというのに、大分気分は晴れやかになっている。とはいえ、悔恨が晴れたわけではない。
『緑間君。また……やりましょう』──店を出る前に奴から言われた台詞が、オレの耳に心地よく響いていた。
不意に自転車が止まる。
信号などあるはずもない公園のわき道で自転車を止めた高尾が、突如ひらりと自転車から降り、若干湿ったリヤカーに寄りかかっているオレの傍へと寄る。
組んだ両腕をリヤカーの上に乗せた高尾が夜空を見上げてポツリとこぼした。
「なあ。俺が機嫌悪いの判ってる?」
「それくらい判っているのだよ」
言われずとも、高尾の不機嫌の要因など容易に想像がつく。
オレが今でも黒子に対して並々ならぬ関心を持っているのが気に食わないのだろう。
──かつてのチームメイトであり、今では袂を別った黒子。帝光時代、キセキと呼ばれたメンバーの中でも異質の力を持つあの影を、オレの傍に添わせたいと願いつつも、結局叶うことはなかった。
黒子への想いが未だ燻っていないかと問われると、否だ。
こうして秀徳に進学し、奴のいる誠凛高校と真剣に対戦することで、思っていた以上にオレは黒子への未練を残していたのだということを、よりいっそう強く感じた。
先ほどのお好み焼き屋で黒子とともに同席した、中学時代から黒子に対しやたらと親しげな黄瀬、そして現在の黒子にとっての光であるパートナーの火神。
能力は認めているし、別段嫌っているわけではないにもかかわらず、あの二人に対して言い知れぬ不快感を抱いた。
共通するキィ・ワードはただ一つ、黒子だ。
「大体、黒子がいる席に無理やりオレを着けたのはオマエの差し金だろう」
「そーだけど」
「それで機嫌を悪くされても、オレにはどうしようもないのだよ」
「んー、俺も自分で機嫌悪くなるの判ってたんだけど、それでも知りたかったっつーか」
「何を」
「昔は昔。今のお前の心にいるのは誰かってことを」
ゆっくりと高尾がこちらに顔を向けた。
瞳がオレに語りかけてくる。
ああ、オマエが何を言いたいのかは判っているのだよ。
それでも、残ってしまっている想いは簡単に消えない──決してだ。
オマエが如何にそんな切なそうな瞳をしても、苦しんでも。この傷を得てからオレは、まだ一年も経っていないのだ。
はあ、とため息を吐いたオレはちらりと高尾を見やった。
「それを言うならオマエとて海常の三年生とよろしくやっていただろう。お互い様なのだよ」
オレの発言を聞いて、何が嬉しいのか高尾はあからさまに明るい笑顔を浮かべた。
「真ちゃん。それって嫉妬?」
「……いいから黙って自転車に戻れ。帰りが遅くなる」
「あー、ガソリン切れた」
人力にガソリンも何もないだろう。
やれやれと思いながら、オレは高尾の顎を軽く掴んで引き寄せる。
いくら公園のわき道で木陰になっているとはいえ、公道なのだからと周囲に誰もいないことを確認してからオレは高尾に唇を重ねた。
時間にして数秒、短いかもしれないが充電にはこれで十分だろう。
「これだけだと途中で切れるかも」
「そのときはまた充電してやるから、早くこぐのだよ」
いい加減想い出にしなければな──判っていても昇華出来ない想いを燻らせながら、オレは再び自転車を漕ぎ出した高尾の背中を見つめていた。
特製コロコロ鉛筆(緑間→黒子 帝光時代 女性向)
「これをやるのだよ、黒子」
丸一日、全国共通模擬テストが行われている今日。試験も半分が終わり、残すは理科と数学のみとなった昼休みのこと。
一本の鉛筆を取り出したオレは、黒子の机にそれを放り、ころころと転がした。
意図した通り、机のちょうど真ん中で鉛筆の動きが止まる。
「……これは?」
きょとん、と子ウサギの様な瞳をぱちくりと瞬かせながら、鉛筆を手にとった黒子が不思議そうにオレを見上げた。
オレのポリシーでもある「人事を尽くして天命を待つ」という有名な言葉が刻まれた湯島天神の鉛筆。その頭にしっかりとテーピングをして面ごとに数字を記し、コロコロ転がしてランダムな数字を出せるよう加工した、オレの特製鉛筆を手にして言うことはそれだけとは。
今日がテストなこと、そして採点方式がマークシートであることを考えれば、これが何なのか判るだろうに。
まったく、少しはこちらの意図を察して欲しいものなのだよ。
「次の理科は比較的苦手な教科だと言っていただろう。もしものときのお守り代わりにでも使えばいい」
「……覚えていてくれたんですか」
「オレの頭脳をもってすればそれくらい当然だ。それに、別にオマエのために持ってきたわけではない。ここから先の理科と数学はオレの最も得意とする教科。故にオレには不要というだけなのだよ」
勿論、そんなのは建前だ。
本当ならばテストが始まる最初から渡しておきたかったのだが、なかなか切欠がつかめなかった。
おは朝のラッキーアイテムであるアヒルのフィギュアをポケットに忍ばせておいたのだが、やはり今日の運勢でかに座が最下位だったのが効いているのだろう。
当の黒子は鉛筆をじっと見つめたまま反応がない。
ふん、まったく相変わらず心の読めない男だ。
桃井も言っていたが、だからこそ黒子という男は興味が尽きないのだろう。
そしてバスケ以外への無関心さと熱のなさが、この瞳に自分だけを映させたくなる、そんな欲をかきたてるのだ。
もうまもなく休み時間も終わる。
渾身のアイテムではあるが、反応については大して期待もしていなかったので、オレは自分の席に戻ろうと黒子にきびすを向けた。
「緑間君」
「何だ」
背を向けたまま肩越しに振り返ったオレの瞳に映ったものは──
「ありがとうございます」
そう言って顔を上げた黒子の口角が僅かに緩んだ。
普段、他人に対してめったに表情を変えない黒子が、オレに微笑んだのだ。
──反則だろう、それは。
オレも人の事を偉そうにいえるものではないが、普段から仏頂面である人間の見せる、対個人に限定された笑顔というのは、非常に危うい魅力を放つものであるということを、オレは今日初めて知った。
「この鉛筆、一本だけですか?」
「何故そんなことを聞く」
「ボクよりも、黄瀬君にも貸してあげたほうがいいかと思ったんですが。緑間君、構いませんか」
「生憎今日持ってきているのはその一本だけなのだよ。……それはオマエにやったのだから、好きにすればいい」
「はい」
頷く黒子が立ち上がった。確認したくもないが判る、黒子の視線の先にいるのは黄瀬だろう。
まったく、人の気分を上下させるのがうまい奴なのだよ。天国から地獄へと、一気に突き落とされた気分だ。
確かにその鉛筆を必要としているのは黒子より黄瀬、もしくは青峰だろう。
黄瀬の場合、本人は勉強オッケー等と公言しているが実際そんなに成績がいい訳ではない。青峰は一夜漬けをしてくることが多く、また気分にむらがあるので試験を真面目に受けない可能性もある。
補習で部活に出られないなどという事態にならないように、黄瀬への気遣いはチームメイトとして当然の範疇だろう。
だが、面白くはない。
あれは黒子に渡したのであって、黄瀬の役に立ちたかったわけではないのだ。それに、鉛筆が仲介役になって黄瀬がまた黒子に飛びつく姿も容易に想像できる。
忌々しい限りだ。
どうやら今日の運勢はラッキーアイテムで修正が難しいほど悪いらしい。
暗澹たる気分で席に着いたオレのところに、黒子が歩いてくる。
その後ろでオレの鉛筆を掲げながら喜んでいる黄瀬の姿が目に映ったオレは、不機嫌を隠さず頬杖をついた。
「何なのだよ」
「緑間君。先ほどの鉛筆は黄瀬君に貸してあげました」
「見れば判る」
「だから、緑間君の他の鉛筆を貸してもらえませんか」
「……は?」
意味がわからない。
さっき、特製鉛筆は一本しかないといったのを忘れたのだろうか。
「悪いが、特製鉛筆はあれ一本しか」
「判ってます」
「何だと?」
オレの言葉を途中で遮ったわりに、黒子は無言のままたっぷり十数秒はオレの目を見つめて、それから口を開いた。
「……特製鉛筆じゃなくていいんです。お守り代わりに、緑間君の鉛筆を貸してもらいたかったんですけど、駄目ですか」
期待などしてはいけない。相変わらず表情に変化はないし、恐らく深い意味などないのだ。そうして期待して肩透かしを食らったことが今まで何度あったか知れないのだ。
そう判っていて尚、黒子の言葉にオレは再び心が浮遊するのを感じていた。
「好きなのを持っていけばいいのだよ」
「ありがとうございます」
開いたペンケースの中から、黒子が無作為に一本の鉛筆を手に取る──それは数本あるうちの、深い緑色の鉛筆だった。
何の仕掛けもない緑色の鉛筆を手にした黒子が小さくガッツポーズをとる。
「緑間君、頑張りましょう」
「頑張るのはオマエなのだよ。オレはすでに人事を尽くしているのだから」
「そうでした」
チャイムの音とともに席に戻っていく黒子の背中を見つめながらオレは、本当に考えの読めない奴なのだよ、と呟いた。
丸一日、全国共通模擬テストが行われている今日。試験も半分が終わり、残すは理科と数学のみとなった昼休みのこと。
一本の鉛筆を取り出したオレは、黒子の机にそれを放り、ころころと転がした。
意図した通り、机のちょうど真ん中で鉛筆の動きが止まる。
「……これは?」
きょとん、と子ウサギの様な瞳をぱちくりと瞬かせながら、鉛筆を手にとった黒子が不思議そうにオレを見上げた。
オレのポリシーでもある「人事を尽くして天命を待つ」という有名な言葉が刻まれた湯島天神の鉛筆。その頭にしっかりとテーピングをして面ごとに数字を記し、コロコロ転がしてランダムな数字を出せるよう加工した、オレの特製鉛筆を手にして言うことはそれだけとは。
今日がテストなこと、そして採点方式がマークシートであることを考えれば、これが何なのか判るだろうに。
まったく、少しはこちらの意図を察して欲しいものなのだよ。
「次の理科は比較的苦手な教科だと言っていただろう。もしものときのお守り代わりにでも使えばいい」
「……覚えていてくれたんですか」
「オレの頭脳をもってすればそれくらい当然だ。それに、別にオマエのために持ってきたわけではない。ここから先の理科と数学はオレの最も得意とする教科。故にオレには不要というだけなのだよ」
勿論、そんなのは建前だ。
本当ならばテストが始まる最初から渡しておきたかったのだが、なかなか切欠がつかめなかった。
おは朝のラッキーアイテムであるアヒルのフィギュアをポケットに忍ばせておいたのだが、やはり今日の運勢でかに座が最下位だったのが効いているのだろう。
当の黒子は鉛筆をじっと見つめたまま反応がない。
ふん、まったく相変わらず心の読めない男だ。
桃井も言っていたが、だからこそ黒子という男は興味が尽きないのだろう。
そしてバスケ以外への無関心さと熱のなさが、この瞳に自分だけを映させたくなる、そんな欲をかきたてるのだ。
もうまもなく休み時間も終わる。
渾身のアイテムではあるが、反応については大して期待もしていなかったので、オレは自分の席に戻ろうと黒子にきびすを向けた。
「緑間君」
「何だ」
背を向けたまま肩越しに振り返ったオレの瞳に映ったものは──
「ありがとうございます」
そう言って顔を上げた黒子の口角が僅かに緩んだ。
普段、他人に対してめったに表情を変えない黒子が、オレに微笑んだのだ。
──反則だろう、それは。
オレも人の事を偉そうにいえるものではないが、普段から仏頂面である人間の見せる、対個人に限定された笑顔というのは、非常に危うい魅力を放つものであるということを、オレは今日初めて知った。
「この鉛筆、一本だけですか?」
「何故そんなことを聞く」
「ボクよりも、黄瀬君にも貸してあげたほうがいいかと思ったんですが。緑間君、構いませんか」
「生憎今日持ってきているのはその一本だけなのだよ。……それはオマエにやったのだから、好きにすればいい」
「はい」
頷く黒子が立ち上がった。確認したくもないが判る、黒子の視線の先にいるのは黄瀬だろう。
まったく、人の気分を上下させるのがうまい奴なのだよ。天国から地獄へと、一気に突き落とされた気分だ。
確かにその鉛筆を必要としているのは黒子より黄瀬、もしくは青峰だろう。
黄瀬の場合、本人は勉強オッケー等と公言しているが実際そんなに成績がいい訳ではない。青峰は一夜漬けをしてくることが多く、また気分にむらがあるので試験を真面目に受けない可能性もある。
補習で部活に出られないなどという事態にならないように、黄瀬への気遣いはチームメイトとして当然の範疇だろう。
だが、面白くはない。
あれは黒子に渡したのであって、黄瀬の役に立ちたかったわけではないのだ。それに、鉛筆が仲介役になって黄瀬がまた黒子に飛びつく姿も容易に想像できる。
忌々しい限りだ。
どうやら今日の運勢はラッキーアイテムで修正が難しいほど悪いらしい。
暗澹たる気分で席に着いたオレのところに、黒子が歩いてくる。
その後ろでオレの鉛筆を掲げながら喜んでいる黄瀬の姿が目に映ったオレは、不機嫌を隠さず頬杖をついた。
「何なのだよ」
「緑間君。先ほどの鉛筆は黄瀬君に貸してあげました」
「見れば判る」
「だから、緑間君の他の鉛筆を貸してもらえませんか」
「……は?」
意味がわからない。
さっき、特製鉛筆は一本しかないといったのを忘れたのだろうか。
「悪いが、特製鉛筆はあれ一本しか」
「判ってます」
「何だと?」
オレの言葉を途中で遮ったわりに、黒子は無言のままたっぷり十数秒はオレの目を見つめて、それから口を開いた。
「……特製鉛筆じゃなくていいんです。お守り代わりに、緑間君の鉛筆を貸してもらいたかったんですけど、駄目ですか」
期待などしてはいけない。相変わらず表情に変化はないし、恐らく深い意味などないのだ。そうして期待して肩透かしを食らったことが今まで何度あったか知れないのだ。
そう判っていて尚、黒子の言葉にオレは再び心が浮遊するのを感じていた。
「好きなのを持っていけばいいのだよ」
「ありがとうございます」
開いたペンケースの中から、黒子が無作為に一本の鉛筆を手に取る──それは数本あるうちの、深い緑色の鉛筆だった。
何の仕掛けもない緑色の鉛筆を手にした黒子が小さくガッツポーズをとる。
「緑間君、頑張りましょう」
「頑張るのはオマエなのだよ。オレはすでに人事を尽くしているのだから」
「そうでした」
チャイムの音とともに席に戻っていく黒子の背中を見つめながらオレは、本当に考えの読めない奴なのだよ、と呟いた。
想い出。(総覗&白狼)
湖と呼ぶには小さく、池と呼ぶには大きい水辺のほとりで膝をついていた白狼は、深いため息を吐く。
この時期にはなかなか姿を見かけない薬草が急遽必要になったので、日課である薬草摘みに合わせて探しに来てみたものの、やはりどこにも見当たらない。
何とか見つかればいいのだが、そう簡単にはいかないだろう。
その薬草は治療に必須というわけではないのだが、あれがあるとないでは苦痛の軽減度がまったく違う。流行り病ではないはずなのだが、先日同様の症状が出た患者に作り置きしておいた分を使ってしまったのが痛い。
気を入れなおして再び目当ての薬草を探し始めた白狼の躯が不意に陽射しから隠れる。
少しばかり顔を上げると、見慣れた足が目の前に立っていた。さらに視線を上げていくと、そこには予想通り精悍な造作の顔に爽やかな笑みを浮かべた幼馴染──総覗がいた。
「薬草摘みか」
「見ての通りだ。それに、ちょっと厄介な熱を出してるのがいてな。熱さましにいい薬草があるにはあるんだが、この時期はなかなか生えてない。そいつをどうにか見つけないとってわけだ」
「手伝うぞ」
「それはいいけど総覗、お前に要る草がわかるのか?」
「教えてもらえれば、それくらいは」
「なら、わかり易い方を頼む。ここ見てくれ。こんな風に根元に筋が入っている、背の低いものを選んで摘んでくれ。俺は熱さましに要るほうを探す」
「了解」
頷いた総覗はその場にしゃがみこんで白狼が指示したとおりの薬草を摘んでいく。
基本的に白狼は他人に薬草摘みを任せない。ヘタに関わらせると、有用だとわかった草を見境なく積んだ上に売り払ったりされる恐れがあるからだ。仲間とはいえ金銭が関わることなのでそのあたりは十分に注意を払っている。
総覗の場合、そんな心配もないから気軽に頼むことが出来るのだ。
二人ともしばらく無言でいたが、ふと総覗が体を起こして白狼に呼びかける。
「なあ白狼、この花って見覚えないか?」
総覗の手に握られていたのは、小さな白い花弁が集まって球状となっている花だった。
「覚えてるさ。昔、器用に花輪作ってたよな」
「ああ、やっぱり」
白い花をじっとみつめ、総覗が懐かしそうに目を細めた。
懐かしい話だ、と白狼もその花に纏わる記憶に思いを馳せる。
それは彼らが物心つくかつかないか、そんな頃の話だ。
周囲の女性達が茎を器用に編みこんで花輪を作っていた。首にかけたり、頭を飾ったりしているのを見て、二人も花輪を作りたがった。
今でこそ薬師として弓師として充分に器用な白狼だが、当時は花輪ひとつもうまく作ることが出来ず、完成できたのは総覗だけ。自分の分が出来ずに口をへの字に曲げていた白狼の頭に、俺のをやるよと言って総覗はできたての花輪を載せた。
暫し瞳を閉じて幼い頃の思い出に浸っていた白狼の頭に、ふわりと何かが載せられた。
「総覗?」
「男が花で飾っても別にいいな」
白狼が思い出に浸っている間に総覗は、あの頃作ったものとは少し違う造りの、花の数を減らし簡略化してささっと作り上げた花輪を白狼の頭にのせたらしい。
満足げに頷いた総覗に白狼はわざと大きなため息を吐いた。
「こういうことするなら、もう手伝い頼まないぞ」
「え?」
「この花も薬草なんだ。無為に摘んでほしくない」
「そうか、それはすまなかった」
素直に謝って総覗が頭を下げる。
「昔は効能が判明してなかったから気軽に花輪に使ってただけで、今は大事な薬草なんだ。ま、次からやらなければいいさ」
「でもな、白狼」
「何だ?」
顔を上げた総覗が晴れやかに笑いかける。
「この花たちは、お前を飾れて喜んでると思うぞ。こんなに似合っているんだからな」
「……」
これだから、こいつは──。
喉元まで出掛かった言葉を辛くも飲み込んだ白狼は、肩を落としてため息を吐くに留める。
「馬鹿言ってないで、さっさと摘んで戻ろうぜ」
「ああ」
頷いた総覗が再び腰を落とし薬草探しを再開する。
もう一度、今度は小さくため息を吐いてから。頭に花輪を載せたまま、白狼も薬草摘みを再開した。
この時期にはなかなか姿を見かけない薬草が急遽必要になったので、日課である薬草摘みに合わせて探しに来てみたものの、やはりどこにも見当たらない。
何とか見つかればいいのだが、そう簡単にはいかないだろう。
その薬草は治療に必須というわけではないのだが、あれがあるとないでは苦痛の軽減度がまったく違う。流行り病ではないはずなのだが、先日同様の症状が出た患者に作り置きしておいた分を使ってしまったのが痛い。
気を入れなおして再び目当ての薬草を探し始めた白狼の躯が不意に陽射しから隠れる。
少しばかり顔を上げると、見慣れた足が目の前に立っていた。さらに視線を上げていくと、そこには予想通り精悍な造作の顔に爽やかな笑みを浮かべた幼馴染──総覗がいた。
「薬草摘みか」
「見ての通りだ。それに、ちょっと厄介な熱を出してるのがいてな。熱さましにいい薬草があるにはあるんだが、この時期はなかなか生えてない。そいつをどうにか見つけないとってわけだ」
「手伝うぞ」
「それはいいけど総覗、お前に要る草がわかるのか?」
「教えてもらえれば、それくらいは」
「なら、わかり易い方を頼む。ここ見てくれ。こんな風に根元に筋が入っている、背の低いものを選んで摘んでくれ。俺は熱さましに要るほうを探す」
「了解」
頷いた総覗はその場にしゃがみこんで白狼が指示したとおりの薬草を摘んでいく。
基本的に白狼は他人に薬草摘みを任せない。ヘタに関わらせると、有用だとわかった草を見境なく積んだ上に売り払ったりされる恐れがあるからだ。仲間とはいえ金銭が関わることなのでそのあたりは十分に注意を払っている。
総覗の場合、そんな心配もないから気軽に頼むことが出来るのだ。
二人ともしばらく無言でいたが、ふと総覗が体を起こして白狼に呼びかける。
「なあ白狼、この花って見覚えないか?」
総覗の手に握られていたのは、小さな白い花弁が集まって球状となっている花だった。
「覚えてるさ。昔、器用に花輪作ってたよな」
「ああ、やっぱり」
白い花をじっとみつめ、総覗が懐かしそうに目を細めた。
懐かしい話だ、と白狼もその花に纏わる記憶に思いを馳せる。
それは彼らが物心つくかつかないか、そんな頃の話だ。
周囲の女性達が茎を器用に編みこんで花輪を作っていた。首にかけたり、頭を飾ったりしているのを見て、二人も花輪を作りたがった。
今でこそ薬師として弓師として充分に器用な白狼だが、当時は花輪ひとつもうまく作ることが出来ず、完成できたのは総覗だけ。自分の分が出来ずに口をへの字に曲げていた白狼の頭に、俺のをやるよと言って総覗はできたての花輪を載せた。
暫し瞳を閉じて幼い頃の思い出に浸っていた白狼の頭に、ふわりと何かが載せられた。
「総覗?」
「男が花で飾っても別にいいな」
白狼が思い出に浸っている間に総覗は、あの頃作ったものとは少し違う造りの、花の数を減らし簡略化してささっと作り上げた花輪を白狼の頭にのせたらしい。
満足げに頷いた総覗に白狼はわざと大きなため息を吐いた。
「こういうことするなら、もう手伝い頼まないぞ」
「え?」
「この花も薬草なんだ。無為に摘んでほしくない」
「そうか、それはすまなかった」
素直に謝って総覗が頭を下げる。
「昔は効能が判明してなかったから気軽に花輪に使ってただけで、今は大事な薬草なんだ。ま、次からやらなければいいさ」
「でもな、白狼」
「何だ?」
顔を上げた総覗が晴れやかに笑いかける。
「この花たちは、お前を飾れて喜んでると思うぞ。こんなに似合っているんだからな」
「……」
これだから、こいつは──。
喉元まで出掛かった言葉を辛くも飲み込んだ白狼は、肩を落としてため息を吐くに留める。
「馬鹿言ってないで、さっさと摘んで戻ろうぜ」
「ああ」
頷いた総覗が再び腰を落とし薬草探しを再開する。
もう一度、今度は小さくため息を吐いてから。頭に花輪を載せたまま、白狼も薬草摘みを再開した。
誰のために。(総覗&白狼)
どこまでも広がる草の海を二つの影が走り抜けていく。
常人とは思えない速度で抜きつ抜かれつしながら、二人──総覗と白狼は遠方の大樹へと向かっていた。
その根元にはあらかじめ赤い木の実がなっている枝が地面に突き立てられ、そよぐ風に揺らいでいる。
少しばかり早く大樹に到着した総覗が、その枝を軽々引き抜いた。
その僅か後にたどり着いた白狼が負けたことを悟って悔しそうに舌を鳴らすと、額に浮かんだ汗を手の甲で拭ってから草の上へ仰向けに寝転び、透き通るような青空を見上げた。
長い黒髪を結っていた紐が解け、流れるような漆黒が草むらに広がる。
「やっぱり走るのはお前に敵わないな」
「この距離が俺に有利なだけだ。長距離なら白狼、お前のが早いだろうし。大体今のは結構僅差だったぞ」
「どうだかな。謙遜も過ぎると嫌味だぜ、総覗。たとえ距離が違おうと、駆け足でお前に敵う奴はいやしないさ」
大樹に寄りかかって涼しそうに風を受けている総覗を見上げ、白狼は大きく息を吐いた。
実際、駆け足で総覗に勝てるとは思っていない。ただ鍛錬は怠りたくないので毎日こうして競争の誘いをかけている。
負けるとわかっていてももちろん悔しい。が、能力の差は天賦のものなのでいかんともしがたい。
努力だけでは総覗の背中に追いつけないのだ。
「そんなつもりはなかったんだが、悪かった」
困ったように笑う総覗を見て、少し言い過ぎたと感じた白狼は気まずさを隠すように手近の葦を引き抜いて口に銜えて瞳を閉じた。
白狼の隣に腰を下ろした総覗は、到着点に用意しておいた水入りの皮袋を口にして喉を潤す。
ふう、と息を吐いた総覗は水の入った皮袋を白狼の頬に当てた。
何をするんだという表情の白狼がゆっくりとまぶたを開けると、そこには迷いのない総覗の瞳が至近距離にあった。
「何だよ」
「白狼。俺は、お前の薬も弓も頼りにしてる」
「知ってるさ。それでも、俺は少しでも強くありたいんだ」
「今のままでも十分だってのに、何がお前をそうさせるんだろうな」
遠くを見やる総覗に、お前が知るわけないと白狼は内心毒づいた。
自分の属する集団の頭領を継ぐ立場の総覗。白狼はそれを補佐する者として万能でありたいと願っているだけだ。
さまざまな薬を調合することも、仲間内の動向を把握することも、弓の腕を磨くことも。
そして総覗の背中を守るためには、そこに追いつけなければ意味がない。故に白狼は鍛錬を続けている。
つまり全ては総覗のため──なのだが、当人を目の前にしてそれを言うのは流石に照れくさい。
「……さあな……」
小さくつぶやいた白狼の言葉に、総覗が無言の微笑みで返した。
常人とは思えない速度で抜きつ抜かれつしながら、二人──総覗と白狼は遠方の大樹へと向かっていた。
その根元にはあらかじめ赤い木の実がなっている枝が地面に突き立てられ、そよぐ風に揺らいでいる。
少しばかり早く大樹に到着した総覗が、その枝を軽々引き抜いた。
その僅か後にたどり着いた白狼が負けたことを悟って悔しそうに舌を鳴らすと、額に浮かんだ汗を手の甲で拭ってから草の上へ仰向けに寝転び、透き通るような青空を見上げた。
長い黒髪を結っていた紐が解け、流れるような漆黒が草むらに広がる。
「やっぱり走るのはお前に敵わないな」
「この距離が俺に有利なだけだ。長距離なら白狼、お前のが早いだろうし。大体今のは結構僅差だったぞ」
「どうだかな。謙遜も過ぎると嫌味だぜ、総覗。たとえ距離が違おうと、駆け足でお前に敵う奴はいやしないさ」
大樹に寄りかかって涼しそうに風を受けている総覗を見上げ、白狼は大きく息を吐いた。
実際、駆け足で総覗に勝てるとは思っていない。ただ鍛錬は怠りたくないので毎日こうして競争の誘いをかけている。
負けるとわかっていてももちろん悔しい。が、能力の差は天賦のものなのでいかんともしがたい。
努力だけでは総覗の背中に追いつけないのだ。
「そんなつもりはなかったんだが、悪かった」
困ったように笑う総覗を見て、少し言い過ぎたと感じた白狼は気まずさを隠すように手近の葦を引き抜いて口に銜えて瞳を閉じた。
白狼の隣に腰を下ろした総覗は、到着点に用意しておいた水入りの皮袋を口にして喉を潤す。
ふう、と息を吐いた総覗は水の入った皮袋を白狼の頬に当てた。
何をするんだという表情の白狼がゆっくりとまぶたを開けると、そこには迷いのない総覗の瞳が至近距離にあった。
「何だよ」
「白狼。俺は、お前の薬も弓も頼りにしてる」
「知ってるさ。それでも、俺は少しでも強くありたいんだ」
「今のままでも十分だってのに、何がお前をそうさせるんだろうな」
遠くを見やる総覗に、お前が知るわけないと白狼は内心毒づいた。
自分の属する集団の頭領を継ぐ立場の総覗。白狼はそれを補佐する者として万能でありたいと願っているだけだ。
さまざまな薬を調合することも、仲間内の動向を把握することも、弓の腕を磨くことも。
そして総覗の背中を守るためには、そこに追いつけなければ意味がない。故に白狼は鍛錬を続けている。
つまり全ては総覗のため──なのだが、当人を目の前にしてそれを言うのは流石に照れくさい。
「……さあな……」
小さくつぶやいた白狼の言葉に、総覗が無言の微笑みで返した。
ABOUT
● このブログはクロストラブル/38.1の高山アキが執筆する、サイトやイベント関連のご連絡・萌語りなどの雑記と、小説の新作をupしておく保管庫場となっております。
● 小説は、サイト内に移動されたものから、一定期間をおいてこちらからは削除させていただきます。
● ジャンル・CPなどよろずとなっておりますので、各記事の説明書きをお読みの上、閲覧ください。
● 小説は、サイト内に移動されたものから、一定期間をおいてこちらからは削除させていただきます。
● ジャンル・CPなどよろずとなっておりますので、各記事の説明書きをお読みの上、閲覧ください。
CATEGORIES
NEW !
(11/20)
(11/15)
(11/12)
(11/11)
(11/01)
SEACH