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日記 + 最新小説保管 / 創作・版権二次創作 / 同性愛要素、性表現含
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一日遅れのハロウィンSS──ギル×オズ(PandoraHearts)
一日遅れのハロウィンSS第五弾、多分ラストはPandoraHeartsより。
ギル×オズです。

相方のリクエストでしたが楽しんで書けました。
原作は佳境、怒濤の展開ですね……
はっ、そういえば新刊もうすぐか。
大変楽しみに読んでいるシリーズの一つです。


では、続きを読むからお進みください。

 観光客がこれを目当てにこぞって訪れるというハロウィンの装飾が街並みを鮮やかに染め上げているが、今は何の慰めにもならない。
 むしろ鬱積した思いが増すばかりだった。
 店が所狭しと並んだ石畳の街路を歩きながらギルバートは、メモ用紙を手にぶつぶつと文句を垂れた。
 そこには主人であるオズから頼まれた買い物がいくつか記されていた。
 大体なんで自分がこのような小間使いをせねばならないのか、それも理解に苦しむ。
 本来であれば何か特命がない限り主人の傍を決して離れず何があっても主を護り通す、それが従者たるものの役割であって、今回のこれが特命と呼ぶに値するとは到底思えず、要するにギルバートはただのお使いに出されたのが非常に不満なのである。
 こうして出歩いている間にも、オズを狙ったチェインが屋敷へ襲撃してくる可能性があるというのに。
「はあ……」
 深い溜息を吐いてギルバートは道の真ん中で立ち止まる。
 嫌なら嫌だと言えばよかっただけの話だ。
 それが言えなかった時点でギルバートの負けなのである。
 いや、だがしかし──あの負け方は非常に腑に落ちない。
「まったく、いつあんな技覚えたんだ」
 ついさっきの、オズがギルバートをお使いに出す為に取ったやり口を思い出すだけで、今もわなわなと両手が震え、顔に血が昇る──と表現すると、傍から見てまるで怒り心頭のように見えるが、なんのことはない、ギルバートはただ単に照れの局地にいるだけだった。
(本当に、まったく)
 ナイトレイの人間として、またレイヴンの継承者として。ギルバートはチェインを操り身を護る術を覚える為のストイックな生活を送ってきた。
 最低限社交界に出る身として女性への礼儀は心得ているが、上司以外の異性と昵懇になった経験が一切なく、心底シャイなギルバートに言わせれば、オズのあれは反則、もしくはだまし討ちの類に値する。
 ――ギル。
 耳の奥、鼓膜の内側に置き去られたオズの言葉が今になって何度もリフレインする。
「……っ!」
 癖のある髪を大きく揺らしながら頭を振ったギルバートは、頬を紅潮させて苦虫を噛み潰したようにチッと舌を鳴らす。 
 屋敷が人すくなで、部屋に居たのが自分とオズだけで本当に良かった。アリスがシャロンのところでレディ教育とやらを受けている最中だったのは不幸中の幸いであったというべきか。



「ギル、今日っていったい何の日か知ってる?」
「は?」
 今日が何の日かなんてこと物心ついたばかりの幼子ですら知っている。今更、しかも唐突に何を言っているのかとギルバートは首を傾げた。
「今日は何の日って、ハロウィンだろう。他に何かあったか?」
「ううん。正解ー」
「まさかと思うが、ハロウィンをやりたいなんて言い出しやしないよな」
「え。ダメなの?」
 無邪気な笑顔で聞き返されたギルバートは呆れて物も言えず、無言のままがっくりと肩を落とした。
「ハロウィンなんて子供のするものだろうが」
「いいじゃん。俺、実際まだ子供だし。アリスと一緒に仮装して、シャロンちゃんやブレイクのとことかあちこち回ったら、バスケット一杯分くらいのお菓子は集まるんじゃない? きっと喜ぶと思うんだー」
「……なんだ。あの馬鹿ウサギの為か」
 やれやれとわざとらしいほど大きなため息を吐いて、ギルバートは小さく首を振る。
 確かに食への執着が異常に強い、あの食い意地の張ったウサギのことだ。ハロウィンの慣習を知ったら目を輝かせ喜び勇んで駆け回るだろう。Trick or Treatと言いつつ、お菓子を奪いながら悪戯を振りまく姿が容易に想像できて、ギルバートは憂鬱な顔を覗かせる。
 ピーラビットと呼ばれることもある、ギルバートにとってはただの馬鹿ウサギであるところの少女、アリス。アビスを巡る一連の事件の鍵を握ると目されているアリスの尻ぬぐいは、大抵保護者役たる自分が負うパターンが多く、大変疲れるのだ。
 そんなギルバートの気苦労を知ってか知らずか、オズがさも嬉しそうに頷いた。
「うん。だってアリスはきっとハロウィンなんてやったことないだろうからさ。少しでも笑顔になってくれるならと思って。最近ちょっと元気なかったし、お祭りで仮装するのって結構楽しいしね」
「好きにすればいい。俺は屋敷で調査の続きをしてるから、二人で息抜きでもするんだな」
 やさぐれたように吐きだしたギルバートは、それだけ言い残して部屋から出ようとする。
 ――が、いつの間に正面へ回り込んだのか、両手を後ろで組んだオズがドアの前で立っていた。
 瞳に悪戯色を強くしたオズを見て、ギルバートの心に警鐘が鳴る。何を考えているかは読めないが、こういう表情をしているときのオズに勝った例しがないのである。
「何だ」
「ギル、もしかして妬いてる?」
「……誰が」
「へえ。本当?」
「俺は忙しいんだ。馬鹿ウサギのことなんていちいちかまけてられるか。ハロウィン結構、オズがやりたいようにすればいい。危険なことがあるならともかく他愛のないご近所周りくらい俺が口出しすることでもないさ」
「ねえギル」
「……なんだ」
「嘘つくとき、ギルって饒舌になるよねー」
「そっ……れは、別に嘘をついているからじゃない。説明していただけだ」
 内心、見抜かれたと思ってしまったギルは、オズのこちらの反応を伺うような視線から逃れるようにふっと目をそらす。
 正直なところ、ギルバートはオズがアリスに心を砕いている事実をあまりおもしろく思っていない。というか、有り体に言えば気にくわない。
 自分の心を寡占するのがオズであるように、オズの心も自分のことで寡占されていればいいのにと思ってしまう。
 無論そんなのは我が儘でしかないとギルバートは判っている。アリスとオズがチェインと主という絆で結ばれている事をどうすることも出来ないし、オズ自身がアリスを救いたいという意思も尊重したい。
 ただ、馬鹿ウサギ――アリスには負けたくない。
 相手と同じランクで勝負意識むき出しなのは非常に子供じみていて格好が悪いのだが、ことオズのこととなると冷静になるのが難しいのだ。
「嘘じゃないって言うなら、お茶の時間までに俺とアリスが着て似合いそうな衣装を買ってきて欲しいんだ。出来れば揃いになってるやつ」
「今からか」
 複雑な気分を押し隠したギルバートは、懐から銀製の懐中時計を取り出して時刻を確認する。時計の針は十三時を回ったところを示していた。
 今すぐに屋敷を出れば間に合うだろうが、選んでいる時間はかなり限られる。店から探すとなるとかなりシビアな時間ではないだろうか。
 眉間にしわ寄せたギルバートの思案を見抜いたようにオズが一枚の紙片を差し出す。
 受け取ったそれには簡単な地図が描かれていて、三カ所ほど印がついていた。
「こういう仮装の品揃えがいいお店をブレイクに教えて貰ってあるんだ。はい、これ地図」
「判った」
 なんでブレイクがそんな店に詳しいのか。相変わらず謎の多い人物だが、今は素直に恩に着ることにする。本人に直接言ってやる気は毛頭ないが。
 コートと帽子を手にし、今度こそ部屋を出ようとするギルバートを、オズの手が再び止めた。
「ギル、ちょっと」
「何だ」 
 人のことを急かしておいて、とギルバートは小さな声で愚痴を零す。
「しゃがんで?」
 おねだりする口調が可愛く、愚痴を言いながらも、ギルはオズに言われるまま膝を折った。
「……だから、なんなんだ」
 視線の高さが対等になったその瞬間、不意にオズの顔が視界から消え――耳にかかる温かな吐息でギルバートは状況を把握する。
 耳元がこそばゆい。
 柔らかな髪がギルバートの頬をくすぐる。ふわりと香るのは昨夜のシャワーで使った香料だろうか――そんなことを考えているうちに、オズの吐息に耳の輪郭を包み込まれた感触に襲われた。
「Trick or Treatって言いたいんだ……ギルに」
 吐息の混じったオズの艶やかな声音が鼓膜に響き、全身へとゆっくり伝わっていく。
 今まで聞いたことのあるオズの声と、どれも違っていた。こんな声も出せたのかと思うほど、色香を感じさせる。
「お菓子の用意は、ギルに任せるよ。あ、アリスの分はちゃんと用意してあげてね」
 くすくすと鈴が鳴るように笑って言うオズの言葉の裏に隠された意味を把握したギルバートは、一瞬で全身の血液が熱くなったような気がした。
 それは、つまり――お菓子ではない方を望んで――
 全身をとりとめのない恍惚の波に襲われたギルバートは、両腕が己の意思伝達経路から離れ、本能の命じるままにゆっくりオズの背に回っていく。
「……ちゃんと買ってきてよ?」
 瞬く間に主人から与えられた使命、つまりお使いのことを思い出して我に返ったギルの耳にちゅっと小さな音の余韻を残し、オズの躯がギルから離れる。
 いったい今何が起きたのか、まるで白昼夢の中にいたような思いに包まれ、両腕を硬直させたままギルは、満面の笑みを浮かべるオズに向かって頷いた。
「とにかく、行ってくる」



 もし誰かにあの場面を見聞きされた日には、何を言われるかわかったものじゃない。そもそもそれ以前にベザリウス家の出入り禁止を食らってしまうこと間違いなしだ。
 それは困る。
 ギルバートにとって、どんなに困らせられようとも、オズは唯一絶対の主であり、己の命よりもかけがえのない存在なのだから。
 それにしても、とギルは再び深いため息を吐いた。
 いったいいつの間にあんな声を出して人をからかうことを覚えたのか、それともあれは本心だったのか。
 人の気持ちも知らないで気軽に煽ってくれて、こちらは行き場のない激情をどう処理した物か真剣に悩んでいるというのに。いっそオズ本人にぶつけて良いというのならそうしてしまうぞ、と半ば投げやりに思ったりもする。
 ギルバートがそんな衝動を抱えているなんて、あの満面の笑みはきっと知りもしないのだ。 
「おい、道の真ん中に突っ立ってんな! 邪魔だ!」
 唐突に耳へ響いた声に、ギルバートはハッとして顔を上げた。
 荷車を引いたコックコートの男に一喝され、ギルバートは回想から戻ってくる。
「申し訳ない」
 風で舞い飛びそうになった帽子を軽く手で押さえながら会釈で詫びを伝え、ギルバートは道の端に寄る。男は山のような南瓜を荷台に載せていた。おそらく今日の為に用意した南瓜料理の材料が足りなくなって、急遽追加で市場まで行ってきたのだろう。
「どこもかしこもハロウィンか」
 重そうな荷車を引く男の背を見つめながらぼやく。
 外気に触れ、また通りすがりに怒鳴られたことも相まって、少しは火照った体も冷めた。
 あの会話の中でオズの真意がどこにあろうが、今は言われた用件を忠実にこなすだけ。それが従僕として正しいあるべき姿。
 普段の自分を取り戻したギルバートは、さっさと買い物をすませて屋敷へ帰ろうと、目的の店へと足早に歩いていった。
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